内閣総理大臣 高市早苗 殿
内閣官房長官 木原稔 殿
内閣府特命担当大臣(男女共同参画担当) 黄川田仁志 殿
文部科学大臣 松本洋平 殿
独立行政法人 国立女性教育会館 理事長 萩原なつ子 殿
2025 年 11 月 14 日
国立女性教育会館<施設見直し>政策に関する疑義を解消することを求める要請
国立女性教育会館(埼玉県、嵐山町)の宿泊棟・研修棟・体育施設等を「2030 年までに撤去する」方向とした現在の政府方針について、私たちは、改めて重大な懸念を表明する。国立女性教育会館は、創設時の理念にもとづき、女性の学習権保障だけでなく、すべての市民が学び合う「社会教育」の拠点として設置され、半世紀近く地域社会の生活とともに育ててきた公共財である。宿泊を伴う学びの場は、行政研修・市民活動・障害のある人々の参加を保障する実践・災害時の活用など多様な実践を通じ、他に代替しえない価値を生み出してきた。
また、「男女共同参画」は、女性のみの学びに限定されるものではなく、多様な人々が共に学び、実践し、その成果は社会への還元によってこそ持続的に推進されるものである。創設前七年に渡り組み上げられたこうした理念と、その後半世紀近くの市民による実践の積み重ねとを無視し、国会を通して国民の議論に供することを怠り、施設を廃止することは、地域に蓄積された社会公共的価値をとりかえしのつかないかたちで奪うことになる。それは、日本国憲法における教育権(学習権)保障義務に反することであり、日本も遵守義務のある 1993 年ウィーン宣言ほか国際人権メカニズムに従い、学校外成人教育の関与する人権教育における学習権を保障することを求める国際的要請にも反することである。
確かに、2025 年、第 217 回国会(常会)で内閣提出法案、独立行政法人男女共同参画機構法案が成立し(2026 年 4 月 1 日施行)、同法案国会審議における政府答弁より、2024 年 7 月 30 日、内閣府、文部科学省、国立女性教育会館発出「独立行政法人国立女性教育会館の機能強化による男女共同参画の中核組織の整備に向けて」に従い、冒頭上述政府方針は既定化されている。これは既に 2024 年 12 月成立令和 6 年度補正予算に始まり、法案成立後政府諸文書にも確認される。
また、この内閣府主導の国立女性教育会館<施設見直し>政策の決定内容と決定過程について、この間、2024 年、第 213回、国会(常会)並びに、2025 年、第 217 回、国会(常会)における審議において、質問に対する政府答弁により、当該政策に関わる行政行為はその一部が国民に明らかにされた。
しかし、行政行為の全体像は、今回、開示請求によって開示された政府文書の示す所、政府説明が不十分であることにより透明性の点で問題があるばかりでなく、2024 年 7 月 30 日文書発出に至る政策決定の内容と過程とについて、公正さ、公平さの点で問題があることは払拭できない。2023 年 11 月 29 日、政府の嵐山町往訪における政府側説明において、移転または譲渡という選択肢決定に当たって、政治家の力が働いていることを説得効果として言及している。先立つこと同年 8 月 24 日、埼玉県国立女性教育会館視察において、政府は、利用者含む当事者主権を無視して、移転という選択肢を既定であるかのように埼玉県に提示している。更に、2024 年 1 月 19 日、埼玉県庁、政府、地元自治体、非公開協議では、一部政治的圧力による方針転換を明らかにしている。また結果として、数日後に始まる第 213 回国会に法案を提出することが断念されている。
その後の 8 月 30 日文書発出に向けての継続非公開協議議事録が示す所、この間、国会での答弁においては、経緯を明らかにしないばかりか、男女共同参画会議ワーキンググループ報告書の<施設見直し>言及を、ワーキンググループに権限が無いことを知りつつ、有るかのように再三誤誘導する発言を繰り返している。行政行為全体が、政府決定主体の男女共同参画会議の審議を軽視し、国会審議並びに利用者含む当事者主権を無視することにより国民主権を蔑ろにしている疑義は、法案成立後も解消されていない。
以上、設立時理念未審議、不当行政行為疑義に基づき、国立女性教育会館「施設廃止」方針を再検討し、拙速な撤去ではなく、理念に立ち返った熟議と、国民に対する説明責任を尽くすことを、私たちは、政府に対してここに強く求めるものである。
リ・ヌエック主催院内集会 「ヌエック施設を廃止しないで! 意志決定過程の不当性」参加者一同