「忖度しなければいけない」と思うなら『虎に翼』を語るな


「4月になったら言わせてもらいます。今はまだ忖度しなければいけない立場ですから」 

12月7日、埼玉県日高市で行われた「人権啓発講演会」に、独立行政法人国立女性教育会館の萩原なつ子理事長が登壇しました。そこで飛び出したのが冒頭の発言です。前日高市議会議員である田中まどかさんの「萩原さんが本当に成し遂げたい男女平等に対して、ある宗教的団体や政治的団体がブレーキをかけていることについてどう思っているのか」という質問に対する答えでした。

講演のタイトルは「『虎に翼』から考える人権」。ジェンダー平等への道のり、アンコンシャスバイアス、男女共同参画機構法について、などが語られました。田中さんは話を聞きながら、この人がヌエック施設廃止を止めない「張本人であることに違和感が否めなかった」と言います。その疑問は、田中さん自らが投げかけた質問への答えによって、たいへん残念な形で氷解しました。

萩原理事長は、ジェンダー平等に関して日本で唯一のナショナルセンターであるヌエックを運営する法人の長です。その人物が、多大な人権侵害を行う宗教法人および密接な関係にある政治団体に「忖度しなければいけない立場」だと、当たり前のように口にするとは。
また、男女共同参画機構法の意義を、ナショナルセンターとしての根拠法だと語ったそうですが、田中さんは「その一方で女性が集ってエンパワメントするための宿泊施設や研修棟が廃止されるのでは、主客転倒、元も子もない」と指摘されています。まったくその通りで、そんなこともわからない、言えない人物が理事長になったから、ヌエック施設廃止が進んでしまったのだとさえ思えます。

いま「新しい戦前」になるのではと危惧される社会状況です。今回の講演タイトルの『虎に翼』は、日本初の女性裁判官の一人である三淵嘉子さんをモデルにしたNHKのドラマですが、主人公・寅子の少女時代はまさに戦前。女性だけでなく様々な社会運動が弾圧され、あらゆる人が「忖度」を強いられていました。その歴史を経てある現在、人権推進の拠点の長である人が「忖度しなければ」と堂々と発言する・・・これは民主主義の破壊への道を再びたどっていることの表れではないでしょうか。

萩原理事長は「忖度しなければいけない」と思うなら『虎に翼』を語らないでもらいたいと思います。しかし、講演も含め、終始ユーモアを交えて話しており、参加者のなかには、どれだけ深刻な発言であったのか、気づかない人もいたでしょう。田中さんの指摘は貴重で、ぜひいろいろな人に知ってほしいです。